昔から地元で個人営業してきた喫茶店は店長に話好きで街の情報に詳しい人が多くて、それぞれ店内のイメージやオリジナルなコーヒーカップ等に人一倍の拘りがあったものです。私はそのような店の雰囲気が好きだったので、友人や知人としばしば出入りし、決まって1杯のコーヒーを楽しんだものです。もちろん、アメリカン、カフェオレ、カプチーノなどを一通り飲みました。世界各地の高原地帯で生産されるコーヒー豆は気候や風土毎に地域の栽培方法が異なっているので、豆の風味も少しずつ異なるようです。
従って、昔から出入りしている喫茶店ごとにモカやコロンビアのように異なる生産地のコーヒー豆を取り寄せていることが分かっているので、運んできてくれたコーヒーカップから漂う香りと味が微妙に違っていて、店長のコーヒー豆談義を聞きながら楽しいひと時を過ごしたものでした。また、時には一人で喫茶店へ入ってコーヒーを飲む時などは店長から煎れてくれたコーヒー豆の産地を聞き出して、かつて海外出張で駆け巡って行った産地方面の地域での仕事を思い出し、当時の仕事ぶりや一緒に働いた同僚の顔を思い浮かべて一息つくことは至福の時のようでした。近年は経済性や効率性が喫茶店業界にも押し寄せてきて、全国展開の喫茶店企業が安いアメリカンやブレンドコーヒーを飲ませてくれるようになったので不況時代にコーヒーの愛飲家には大助かりであることは確かです。
しかしながら、どこの店へ入っても余り変わり映えしない店内の雰囲気とコーヒーの似通った味には少々興ざめに感じていますが時代の流れというものなのでしょう。残念ながら昔から営業してきた老舗の喫茶店はこのような大規模展開の喫茶店グループに圧倒されて客足が遠のいてしまい経営が厳しくなり、次々と店を閉めてしまいました。ところどころに細々と営業しているだけになってきましたが、いずれ、私のような喫茶店のコーヒー凝り性タイプの人間だけが静かに出入りするだけになってしまうようです。グローバル化経済の回転の速い社会で多くのビジネスマン等は喫茶店に入ってもコーヒーの香りを味わう余裕を持つ気持ちなどがないようで、一時の息抜きを得られれば満足する方々ですから、逆に、ごった返すような店内の喧騒の中に安らぎを感じているのではないかとさえ思ってしまいます。自宅の最寄り駅周辺にはこのようなチェーン型の喫茶店が増えてしまったので、最近は自宅で家族と食後のコーヒーを飲む機会が大分増えてきたようになりました。お陰でコーヒーの楽しみ方が大分変わってきました。